フランス発祥のエレガントなカクテル「キール」は、ワイン初心者でも楽しめるお酒です。白ワインとカシスだけで作れるシンプルさが魅力ですが、作り方や楽しみ方を知らない方も多いのではないでしょうか。この記事では、キールの基礎知識や作り方、アレンジ方法、楽しみ方を詳しく解説します。

- 夫婦ともに日本ソムリエ協会認定の現役ソムリエ
- 仕事以外でも年間100本のワインを飲む愛好家
- 独自に評価基準を設定し、プロ目線で評価
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夫婦そろってバーテンダーでもあります。お酒のプロが、初心者の人にもわかりやすくカクテルのキールについて解説します。
記事を読めば、自宅で手軽にキールを作れるようになります。キールをおいしく作るには、辛口の白ワインと良質なカシスのリキュールを選ぶことがポイントです。比率は白ワイン5:カシス1が基本です。好みに合わせて調整し、自分好みのキールを見つけましょう。
キールに関する基礎知識


キールに関する基礎知識について解説します。
キールとは白ワインをベースにしたカクテル
キールは、白ワインとクレーム・ド・カシス(カシスのリキュール)を組み合わせたカクテルです。美しい赤紫色から濃いピンク色の見た目と、フルーティーな風味がキールの特徴です。キールの魅力として、以下の点が挙げられます。
- 甘みと酸味のバランス
- 飲みやすいアルコール度数
- 爽やかな味わい
- 食欲増進効果
伝統的なキールには辛口のアリゴテ種の白ワインが使われますが、他の辛口白ワインでも代用できます。キールはワイン初心者でも飲みやすく、ワインの入門としても最適なドリンクです。カジュアルな家飲みからフォーマルなレストランでの食事まで、キールは幅広いシーンで楽しまれています。
本場のブルゴーニュでは、アリゴテ以外の白ワインを使った場合キールとは呼ばず、「ブラン・カシス(Blanc cassis)」と呼ばれます。日本ではアリゴテ以外の白ワインでもキールとして出される場合がほとんどです。



クレーム・ド・カシスはかなり甘いリキュールですので、キールには酸味の強いアリゴテ種の白ワインが適しています。



キールは高級な白ワインより、安くて酸味のある白ワインが向いています。
キールの起源と歴史
キールの歴史は第二次世界大戦中のフランス、ブルゴーニュ地方に遡ります。ナチスドイツがブルゴーニュの貴重な赤ワインを略奪したため、地元の人々は代用酒を必要としていました。キールの名前は、ブルゴーニュの中心都市・ディジョンの市長を務めたフェリックス・キール神父に由来します。
キール神父は地元の白ワイン「アリゴテ」とカシスを組み合わせ、赤ワインの代わりとなる飲み物を作りました。キール神父の意図は単に代用酒を作るだけではありません。公式レセプションでキールを提供することで、地元産の白ワインとカシスの消費促進を狙いました。
戦略は見事に成功し、1940年代後半~1950年代にかけて、キールの人気は急速に広がります。1960~1970年代にかけて、キールはフランス国内だけでなく世界中で知られるようになりました。



キールはアペリティフ(食前酒)として誕生しましたが、現在ではさまざまなシーンで楽しまれています。
キールの作り方


キールの作り方について、以下に分けて解説します。
- 必要な材料
- 基本的な作り方
- おいしく作るためのコツ
必要な材料
キールに必要な材料は、白ワインとカシスのリキュールです。シンプルなカクテルなので、素材選びが大切です。白ワインは辛口のものを選ぶと、カシスの甘さとバランスが取れておいしく仕上がります。



カシスには通常のリキュールよりも甘みが濃厚な「クレーム・ド・カシス」がおすすめです。
基本的な作り方


キールの基本的な作り方は、以下のとおりです。
- 白ワインとカシスを冷やす
- グラスにカシスのリキュールを注ぐ
- 白ワインを注ぐ
基本的な比率は白ワイン5に対してカシス1です。カシスの甘さが強いのが好きな方は、カシスの割合を少し増やしてみることをおすすめします。味が薄まるのを防ぐため、キールには氷を入れません。事前に材料を冷蔵庫で冷やしておくことが大切です。
おいしく作るためのコツ
おいしいキールを作るために最も大切なのは、材料を十分に冷やしておくことです。グラスも事前に冷蔵庫に入れておくと、爽やかな味わいを楽しめます。キールを作る際は、カシスをグラスに注いだ後にワインをゆっくり注ぐことで泡立ちを防げます。かき混ぜすぎないよう、軽く混ぜましょう。
シャルドネやソーヴィニヨン・ブランなどのフルーティーな辛口白ワインを選ぶと、よりワインの果実味が活きた味わいに仕上がります。グラスは冷たさを保つために、ワイングラスやシャンパングラスを使用しましょう。キールは作ったらすぐに飲むのがベストです。時間が経つと風味が落ちてしまうため、作りたてを楽しんでください。
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キールのアレンジ方法


キールは自分好みにアレンジできるカクテルです。代表的なバリエーションを紹介します。
- キール・ロワイヤル
- カーディナル
- その他のアレンジカクテル
キール・ロワイヤル


キール・ロワイヤルは、通常のキールを豪華にアップグレードしたカクテルです。スパークリングワインとカシスを組み合わせて作ります。基本的な配合比率は、スパークリングワイン85~90%に対してカシス10~15%です。
深紅色の華やかな見た目が特徴で、甘みと酸味のバランスが絶妙なフルーティーな味わいを楽しめます。伝統的にはシャンパーニュを使用しますが、他のスパークリングワインでもおいしく作れます。アルコール度数は12%前後で、通常のキールよりもやや高めです。
提供する際は、フルートグラス(細長いシャンパングラス)を使用するのが一般的です。氷は入れず、あらかじめ冷やしたグラスと冷えたスパークリングワインで作ります。キール・ロワイヤルはブランチや祝い事、パーティーなどにもぴったりです。



ロゼより強い赤みの中で立ち登る泡にうっとりします。甘みがあるので女性の乾杯酒としても人気です。
カーディナル


カーディナルは、赤ワインとカシスを組み合わせた、ブルゴーニュ地方が発祥のカクテルです。通常の配合比は赤ワイン85%、カシス15%です。「カーディナル」には司教という意味があり、鮮やかな赤色が司教の衣装を連想させることから名付けられました。
カーディナルの魅力は、カシスの甘さと赤ワインのタンニンが絶妙に調和する点です。赤ワインのタイプによって味わいが変わるので、自分好みの組み合わせを見つけてください。赤ワインは、ボジョレーやピノ・ノワールとの相性が抜群です。
カーディナルは、ワイン初心者の方でも飲みやすく、パーティーやデートなどの華やかなシーンにもおすすめです。



キールの白ワインをシャンパンにすれば「キール・ロワイヤル」、
白ワインを赤ワインにすれば「カーディナル」になります。
その他のアレンジカクテル
キールは、カシスや白ワインを別の飲み物に変えることで、さまざまなバリエーションを楽しめます。人気のアレンジカクテルは、以下のとおりです。
- キール・ノルマン:白ワインの代わりにシードルを使用
- キール・ブルトン:シードルをベースに、カシスの代わりにクレーム・ド・ミュールを使用
- キール・ペッシュ:カシスの代わりに桃のリキュール(クレーム・ド・ペシュ)を使用
- キール・フランボワーズ:ラズベリーのリキュールを使用
- キール・ブルーベリー:ブルーベリーのリキュールを使用
- キール・バイオレット:すみれのリキュールを使用
- キール・パンプルムース:グレープフルーツリキュールを使用
- キール・ミント:ミントリキュールを追加
- キール・ブラン:ココナッツリキュールを使用
基本的な作り方は通常のキールと同じですが、使用するリキュールによって全く異なる味わいになります。何を試すか迷ったときは、自分の好きなフルーツのリキュールを選ぶのがおすすめです。どのアレンジも簡単に作れるので、ホームパーティーなどで複数の種類を用意して飲み比べてみてください。
キールの楽しみ方


キールが適したシーンやペアリングにおすすめの料理について解説します。
キールが適したシーン
キールはさまざまなシーンで楽しめる万能なカクテルです。甘さと酸味のバランスが食欲を刺激するので、食事の始まりに最適な一杯です。ホームパーティーでウェルカムドリンクとして出すと、おしゃれな印象を与えられます。夏の暑い日には、冷やしたキールが爽やかな清涼感をもたらします。
キールはカジュアルな集まりやピクニック、ブランチタイムにもぴったりです。女性が集まる場でも人気があり、見た目の美しさと飲みやすさから女子会やガールズナイトでよく選ばれます。特別なお祝い事には、シャンパンベースのキール・ロワイヤルを用意すると、華やかな雰囲気の演出が可能です。
キールはフランス料理レストランでも食事の始まりによく提供されています。本場フランスの雰囲気を味わいたい方には、フレンチディナーの前にキールを注文することをおすすめします。
ペアリングにおすすめの料理
キールは繊細な味わいを持つカクテルなので、風味が引き立つ料理を選ぶことが大切です。軽やかでフレッシュな前菜や軽食がキールとの相性抜群です。キールにおすすめの料理として、以下が挙げられます。
- チーズプレート
- 生ハムやサラミ
- シーフードの前菜
- 生牡蠣やスモークサーモン
- 白身魚のカルパッチョ
- タパスやブリュスケッタ
- キッシュやパテ、テリーヌ
- 軽いサラダ
キールはデザートとの組み合わせも楽しめます。ベリー系のデザートやフルーツタルトは、キールのフルーティーな風味と見事に調和するので、おすすめです。
» ワインのペアリングのルールや楽しむコツを解説!
キールに合うワインとカシスの選び方


キールに合う白ワインとカシスの選び方を解説します。
白ワインの選び方
キールには辛口の白ワインを選ぶのがポイントです。甘口のワインを使うとカシスと合わせたときに甘すぎて、カクテルとしてのバランスが崩れてしまいます。キールにおすすめの白ワインは、以下のとおりです。
- アリゴテ種のワイン
- シャルドネ
- ソーヴィニヨン・ブラン
果実味とミネラル感のある辛口ワインを選ぶと、カシスとのバランスが良くなります。キールには、熟成ワインよりもフレッシュな若いワインの方がマッチします。キールをおいしく飲むためには、白ワインは8〜10℃程度に冷やしておくのがベストです。
1,000〜3,000円程度の手頃なワインで十分楽しめますので、高価なワインを使う必要はありません。白ワインの選び方を押さえれば、家庭でも本格的なキールを楽しめます。
» 赤ワインと白ワインの違いを知っておいしく楽しもう!
カシスの選び方
本物のクレーム・ド・カシス(Crème de Cassis)を選ぶことがおいしいキールを作る秘訣です。良質なカシスを見分けるポイントは、以下のとおりです。
- アルコール度数15~20%
- 透明感のある深い赤紫色
- フランス・ブルゴーニュ地方産
- 「Crème de Cassis de Dijon」表記
カシスの価格についても注意が必要です。あまりに安価なものは品質に疑問がある場合が多いため、適正価格のものを選びましょう。老舗ブランドであるガブリエル・ブーダンやルクレールなどは信頼性があります。初めてカシスを購入する方は、甘さ控えめのタイプから始めることをおすすめします。



良質なクレーム・ド・カシスは2,000~3,000円程度で購入できます。



カシスが消費しきれない場合は、市販のアイスクリームにかけてキールとともに合わせるのもおすすめです。
キールに関するよくある質問


キールに関してよくある以下の質問に回答します。
- キールのアルコール度数は?
- キールのカロリーはどのくらい?
- キールを作る際に必要な道具は?
- キールを自宅で作る際の注意点は?
キールのアルコール度数は?
キールのアルコール度数は8〜12%程度です。アルコール度数は、使用する白ワインとカシスの割合によって変動します。白ワインのアルコール度数は通常10〜14%、カシスは15〜20%程度です。キールは白ワインとカシスの割合で最終的なアルコール度数が決まります。
シャンパンを使用したキール・ロワイヤルの場合は、アルコール度数が12〜14%とやや高めになります。シャンパン自体のアルコール度数が白ワインより若干高いためです。アルコール度数が気になる場合は、白ワインの代わりにノンアルコールワインを使うことをおすすめします。
ノンアルコールワインを使用すると、キールのアルコール度数を0.5〜2%程度に抑えられます。
» 楽しみ方が変わる!ワインのアルコール度数が決まるポイントと味わい方
キールのカロリーはどのくらい?
キールのカロリーは1杯あたり約100〜120kcalです。カロリーの内訳は以下のとおりです。
- 白ワイン:約70〜90kcal/100ml
- カシス:約25〜30kcal/10ml
カシスは糖分が多く含まれているため、少量でもカロリーに大きく影響します。辛口白ワインは甘口より低カロリーで、甘口白ワインは糖分が多いため高カロリーです。カロリーを抑えたい場合は、ノンアルコールワインで代用する方法もあります。ノンアルコールワインを使用すると約30%のカロリーカットが可能です。
キールは一般的なカクテルと比較すると、中〜低カロリーの部類に入ります。しかし、砂糖やフルーツを追加するとカロリーが増加するので注意が必要です。
» 健康的にワインを楽しむためのコツを紹介
キールを作る際に必要な道具は?


ワイングラスと計量カップがあれば、家庭でもキールを楽しめます。正確な配合と適切な温度管理にこだわる場合は、以下の道具を用意すると便利です。
- 計量カップ
- バースプーン
- ワインオープナー
- ボトルストッパー



目分量でも十分においしく作れます。作り方にこだわらず、ワインをすぐ飲みきれる場合は特別な道具は必要ありません。



軽く混ぜるのに、お箸があれば十分です。
キールを自宅で作る際の注意点は?
キールを自宅で作る際には、以下の点に気を付けましょう。
- アルコール度数に注意する
- カシスの量を自分好みに調整する
- 新鮮な白ワインを使用する
- 清潔なグラスを使用する
キールは飲みやすいカクテルなので、ついつい飲みすぎてしまう場合があります。アルコール度数を把握して適量を守りましょう。グラスは水滴や洗剤の残りがないか確認し、雑味が入らないようにすることが大切です。混ぜ方にも注意が必要です。混ぜすぎるとカシスの色が均一になりすぎるため、軽く混ぜる程度にしましょう。



混ぜる回数は1~2回程度にしましょう。下にカシスが沈んでいるのがベスト。最後に甘味が強くなるので味わいの変化を楽しめます。



混ぜるとせっかくのグラデーションもなくなってしまいます。
キールは時間が経つと風味が変わるため、作りおきせず、その場で提供するのがベストです。装飾用のフルーツやハーブを使う場合は、必ず清潔なものを使用しましょう。見た目も味わいの一部なので、鮮度の良いものを選んでください。
まとめ


キールは、白ワインとカシスを組み合わせた簡単で優雅なカクテルです。基本の比率は白ワイン5:カシス1で、辛口の白ワインを使うと最高の味わいが楽しめます。キールの魅力は、アレンジの幅広さにあります。
シャンパンを使ったキール・ロワイヤルや赤ワインで作るカーディナルなどのバリエーションが豊富です。キールのアルコール度数は約10~12%と飲みやすく、食前酒(アペリティフ)として最適です。特別な道具なく簡単に作れるので、自宅でも手軽に楽しめます。